
季節の香り
画像から秋の香りが漂ってくる気がしませんか? 空気が冷えてくると香りをより強く感じますね。
以前ツアーで隅田公園沿いを歩いていると、この香りに気付いたゲストから名前を聞かれて金木犀と答えましたが英語名が出てきませんでした。するとゲストの中から助っ人が ”fragrant olive” だと教えてくれました。学名は “osmanthus” だとちょっとピンとこないけれど、fragrant も olive も身近な言葉で覚えやすいですね。実際に金木犀もオリーブもどちらもモクセイ科だそうです。
日本には美しい四季があって、それぞれの季節の代表的な花があります。全国に花の名所は数多くあり、その見ごろには大勢の人々が訪れます。花やその香りは目と鼻をとおして私たちの脳に癒しをもたらしてくれます。
コロナ禍の都心の散歩
現在都心のマンション住まいの私、公園や庭園などに行かない限り周囲に土が見える場所がほとんどありません。道路はすべて舗装され、周囲はビルの壁に囲まれている。花なんて、切り花か、ベランダに置いた植木鉢程度、と思っていました。
ところが、コロナ禍の3年間、仕事が無いのでただただ都心を歩き回っていました。そして発見したのです。
都心にだって結構たくさん花が咲いているんですね。
まずは街路樹。都心の街路樹と言えばイチョウとかケヤキとか広葉樹が思い浮かぶのですが、意外とハナミズキ、モクレン、そしてボトルブラシなど花を咲かせる街路樹も多いことに気が付きました。街路樹の間の生垣も沈丁花、つつじ、さつき、紫陽花など様々な花があって目と鼻を楽しませてくれます。手入れがかなり大変だろうとは思うのですが、2023年時点で都内に100万本以上の街路樹が植えられていたそうです。花はコロナ禍でも変わらずに咲いていてほっとした気持ちにさせてくれました。
次に屋上庭園。コンクリートジャングルと言われた頃は灰色の箱型ビルの屋上はやっぱり灰色で、ほとんどがエアコンの室外機とか貯水タンクとかの巨大ネオンサインの置き場になっていた気がいたします。21世紀に入ると都心の再開発が進みました。都会がヒートアイランド現象で人の住めない場所にならないように、ビルの屋上や外壁を緑化したり、敷地全体に緑や水や風が感じられるようにしたりと工夫がなされるようになりました。お蔭で無機質だった都会が少しずつ命の息吹が感じられる場所に変化している気がいたします。
コロナ禍の2021-2年頃には東京駅の丸の内側の再開発はほぼ完了しており、私のお気に入りのお散歩コースになりました。三菱一号館美術館のブリックスクエアから丸の内仲通りのストリートアートを鑑賞しながら行幸通りまで歩き、東京駅前広場を横切ってKITTEビルに入り、2階の入館無料の博物館インターメディアテクを覗いてから6階の屋上テラスに出ます。復元された美しい赤レンガの東京駅舎や駅前広場、丸ビルなどが見渡せます。また線路側に移動すると東京駅を発着する新幹線やローカル列車が見下ろせます。まるで動くジオラマを見ているような感覚になります。他にも近くの銀座東急プラザのキリコテラス、Ginza Six の屋上ガーデン、歌舞伎座の屋上庭園なども私の散歩コースの休憩場所でした。




それから路地。上野や浅草の下町の住宅地もぶらぶらと歩き回りました。普段は仕事や買い物や飲食など、目的を持って表通りを歩いているので路地に入ることなどほとんどありませんでした。2、3階建ての小さな箱型住宅が窮屈そうに並んでいる路地に入ると自転車やスケートボードや箒などが壁に立てかけてあったり、洗濯物が干してあったり、玄関の引き戸が開けっ放しだったりと下町の人々の生活が感じられます。そしてたいていそれらの家々の前には大小の植木鉢が置いてありました。春先、路地を歩いていてふとチューリップやスイセンの小さな鉢に出会った時、白っぽかった紫陽花がいつの間にか濃い青紫になっているのに気づいた時、か弱そうなひまわりが一生懸命太陽を見上げようとしているのを見た時、そしてシクラメンの花が登場し始めた時などなど、季節ごとにふっと温かい気持ちにさせてくれた路地の花たちでした。
下町の路地はそのコミュニティーの私有地のようなものなので、決して観光地化してはいけないところだと思いました。あちこちで立ち止まって写真を撮ったりしながらふらふら歩いているとその町の人に怪しまれる可能性大です。FITの人々がずけずけと入り込んで写真を撮ったり、開いている玄関から勝手に中に入ったり、なんてことが起こりませんようにと心配していたのですが、コロナが明けたらそれらの路地が消えて大きなマンションに変わっていたりしています。
都心の再開発、じわりじわりと下町まで広がってきているんですね。






